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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)630号 判決 1981年2月17日

上告人

原光男

右訴訟代理人

榊原正毅

榊原恭子

被上告人

株式会社安英工務店

右代表者

西谷長安

右訴訟代理人

泉公一

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人榊原正毅、同榊原恭子の上告理由一について

原審が確定したところによれば、(1) 訴外株式会社中谷工務店(以下「中谷工務店」という。)は、昭和四六年六月九日被上告人から西舞子建売住宅の新築工事を請負つた(以下「本件建築請負契約」という。)、(2) 上告人は、中谷工務店に対し四八万七〇〇〇円の約束手形金債権を有していたところ、これを保全するため、昭和四六年七月三一日中谷工務店が被上告人に対して有していた本件建築請負契約に基づく工事代金債権のうち四八万七〇〇〇円につき債権仮差押決定をえ、右決定は同年八月二日第三債務者である被上告人に送達された、(3) 当時、被上告人は中谷工務店に対し少くとも四八万七〇〇〇円の工事代金債務を負つていた、(4) 次いで、上告人は、中谷工務店に対する右約束手形金の請求を認容した確定判決に基づき、右仮差押中の債権についての債権差押及び取立命令をえ、右命令は同年一〇月三〇日、被上告人に送達された、(5) ところが、中谷工務店は、これより先の昭和四六年八月下旬ごろには建築現場に来なくなり、同年九月一〇日までには全工事を完成することを約しながらこれを履行せず、経営困難により工事を完成することができないことが明らかとなつたため、被上告人は、右同日、中谷工務店に対し口頭で本件建築請負契約を解除する旨の意思表示をした、というのである。

原審は、右事実関係に基づき、本件建築請負契約が中谷工務店の債務不履行を理由に解除されたことにより、中谷工務店の被上告人に対する工事代金債権も消滅したとして、上告人の差押にかかる前記四八万七〇〇〇円の工事代金債権についての本件取立請求を排斥した。

しかしながら、建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解するのが相当であるところ(大審院昭和六年(オ)第一七七八号同七年四月三〇日判決・民集一一巻八号七八〇頁参照)、原判決及び記録によれば、被上告人は、本件建築請負契約の解除時である昭和四六年九月一〇日現在の中谷工務店による工事出来高が工事全体の四九.四パーセント、金額にして六九一万〇五九〇円と主張しているばかりでなく、右既施行部分を引き取つて工事を続行し、これを完成させたとの事情も窺えるのであるから、かりにそのとおりであるとすれば、本件建築工事は、その内容において可分であり、被上告人は既施行部分の給付について利益を有していたというべきである。原判決が、これらの点について何ら審理判断することなく、被上告人がした前記解除の意思表示によつて本件建築請負契約の全部が解除されたとの前提のもとに、既存の四八万七〇〇〇円の工事代金債権もこれに伴つて消滅したと判示したのは、契約解除に関する法令の解釈適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、叙上の点についてさらに審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(伊藤正己 環昌一 横井大三 寺田治郎)

上告代理人榊原正毅、同榊原恭子の上告理由

(法令違反)

一、原判決は、

「被上告人が債権仮差押決定の送達(昭和四六年八月二日)をうけた当時、中谷工務店が被上告人に対し少くとも金四八万七〇〇〇円の工事請負代金債権を有していたことは当事者間に争いがない。しかしながら、右工事請負代金債権は、その基本となる被上告人と中谷工務店との工事請負契約が、中谷工務店の債務不履行により解除されたため、消滅したものといわなければならない。」

と認定している。

原判決は、債権消滅事由としての請負契約の内容につき審理せず、解除の効果として契約は遡及的にその効力を失うということしか考えが及ばない、余りにも単細胞的な思考である。

一般的にみても、土木建築請負契約にあつては、未完成工事に対しても、一定の報酬を支払うことが合理的であるとされる場合がすくなくない(川島・渡辺土建請負契約論九一、九二頁)。

既になされた工事の結果は注文者の利得に属し、請負人は結果を引渡しているからである。

被上告人の主張によるもの、出来高49.4%という

本件においては、原審が事実認定の資に供した成立に争のない乙第二号証(注文請書)によれば、本件工事代金は、出来高払い、毎月二五日〆切翌月一〇日支払いと明記されている。これに反する証拠はない。原審はこの書証を見ているのかと疑わざるをえない。

出来高払いの契約にあつては、請負代金は出来高に応じて支払われるべきものである。

請負契約と同時に発生した請負工事代金債権は、出来高に応じて履行期が到来する。その出来高割合は被上告人の主張によるも前記のとおりであり、その引渡しを終り、結果を受領している。

出来高払いの契約における契約解除は、未だ履行を終らない部分についての解除であり、」将来に向つて解除の効力が発生するにすぎぬ(損害賠償は別論)。

一旦有効に成立した契約は、できるだけこれを有効視して法律の保護を与えるべきであり、既に履行を終つた部分についても、解除により遡及的に契約がなかつたものとする解釈は本件については不当である。

本件仮差押執行当時、請負代金債権が存在したことは争いがなく、しかも履行期を経過していたのである。請負契約が解除されたというだけで、履行済みの部分についての請負代金債権が消滅する理由はない。

仮差押時、債権の存在につき争いがない以上、債権はその後も存続するものと推定される。

その消滅は被上告人において主張立証すべき責任を負う。

原審は、工事請負契約が解除されると工事代金債権は消滅すると単純に解しているが、これは本件請負契約の内容、出来高払い、代金債権の履行期についての審理をつくさないか、本件請負契約についての法律解釈を誤つた違法がある。<以下、省略>

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